せっかくの応募、「事故が心配」で断っていませんか?
「60代の経験豊富な方から応募があった。ぜひ来てほしいけど…現場で怪我をされたらどうしよう」
「シニアを雇うと労災が増えるかもしれない。労基署の対応も怖いし、正直迷っている…」
人手不足に悩む企業の経営者や採用担当者の方なら、こんな気持ちを抱えたことがあるのではないでしょうか。
ベテランの力を借りたい。でも、万が一の事故が怖い。
この「漠然とした不安」こそが、シニア採用をためらわせる壁になっています。
先に結論をお伝えすると、シニア雇用で気をつけるべきは「大事故」ではなく「転倒」です。そして、転倒はお金をかけなくても対策できます。正しい知識を持って準備すれば、シニアの力を安心して借りることができるのです。
では、データと一緒に「本当のリスク」を一緒に見ていきましょう。
アクティブくん怪我は心配ですよね。この記事を読めば、『本当に怖いのは何か』『何をすれば安心できるか』がハッキリ見えてきますよ。
データから分かる真実。危ないのは「大事故」ではなく「転倒」
シニアの労災で一番多いのは何か?
「シニアの労災」と聞くと、どんなイメージを持ちますか?
「重機に巻き込まれる」「高所から落ちる」。そんな怖い事故を想像する方もいるかもしれません。
しかし、厚生労働省のデータを見ると、実態は異なります。
製造業における高齢者(50歳以上)の労働災害を事故の種類別に見ると、「転倒」が占める割合は52.7%と最も高くなっています。つまり、シニアの労災の半分以上は「転ぶ」ことが原因なのです。
転倒は「危険な現場」だけで起きるのではない
「うちは工事現場や屋外が仕事場じゃないから大丈夫」——そう思った方もいるかもしれません。
しかし、転倒事故は廊下、事務所、倉庫など、どこでも起きています。段差につまずく、床に置いてあったコードに足を取られる、濡れた床で滑る…。こうした「日常的な場所」での事故が大半を占めているのです。
2024年の労働災害発生状況によると、休業4日以上の死傷者数のうち「転倒」は3万6,378人で最も多く、全体の約27%を占めています。そして、60歳以上の労災による休業4日以上の死傷者数は全体の約30%(約4万人)に達しています。
引用元:
https://www.mhlw.go.jp/content/11302000/001543320.pdf
女性の転倒リスクは特に高い
もうひとつ知っておいていただきたいデータがあります。
厚生労働省の統計によると、60代の転倒事故発生率は、20代と比較して、男性が約4倍、女性は約15倍にもなります。女性の場合、骨密度の低下や筋力の衰え、転倒すると骨折など重症化しやすい傾向があるようです。
シニアの女性を雇用する場合は、特に転倒対策を意識することが大切です。
なぜ事故は起きる?「気持ち」と「体」のギャップ
「不注意」で片付けてはいけない
転倒事故が起きると、つい「不注意だったのでは」と思ってしまいがちです。
しかし、本当の原因は「体の変化」と「意識のズレ」にあります。
- 筋力の低下
足を上げる高さが低くなり、つまずきやすくなる - バランス機能の低下
片足立ちの時間が短くなり、ふらつきやすくなる - 視力の低下
暗い場所や段差が見えにくくなる - 反応速度の低下
とっさに体勢を立て直しにくくなる
年齢を重ねると、私たちの体には自然と変化が起きます。
閉眼片足立ち(目を閉じて片足で立つ)の時間は、年齢を重ねると大きく低下することがわかっています。20代では平均60秒以上できる人も多いですが、60代になると平均20秒程度まで短くなります。
また、長年バリバリ働いてきた方は、「自分はまだ若い頃と同じように動ける」という意識と現実のギャップから、無意識に無理をしてしまうことがあります。
こういった「過信」も、思わぬ転倒事故の原因となります。



誰もが、自分がそんな簡単に転ぶなんて考えてないし、ただ転んだだけで大怪我するなんて最初は思いませんよね。『体が変わった』ことを本人も会社も認識することが第一歩ということですね。
会社がやるべき「3つの安全対策」


シニアの転倒事故を防ぐために、会社ができる対策は大きく分けて3つあります。
どれも特別な設備投資は必要ありません。
厚生労働省のエイジフレンドリーガイドラインでも推奨されている内容ですので、対応できるところからはじめていきましょう。
引用元:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/anzen/newpage_00007.html
対策①|環境を整える(ハード面)
「暗い」はNG。照明を明るくする
年齢を重ねると、暗い場所が見えにくくなります。
通路、階段、倉庫、トイレなど、普段あまり意識しない場所こそ、照明をチェックしてみてください。明るくするだけで、段差や障害物に気づきやすくなります。
古くなった電球があれば、最新の明るいものに変えるだけで、オフィスの見通しも一気に良くなります。
「床」を片付ける。コードや荷物を置かない
床に電源コード、ダンボール、工具などが置いてありませんか?
これらは転倒事故の大きな原因になります。「通路に物を置かない」をルール化するだけで、リスクは大きく減ります。
また、床が濡れていたらすぐ拭くことも大切です。清掃業や飲食業では特に意識してください。



電球を替える、床を片付ける。これなら簡単ですね!
対策②|ルールをつくる
「急がせない」声かけを徹底する
「急いでください!」——こうした声かけが、無理な動きにつながり、転倒事故を引き起こすことがあります。
シニアに限らず、「慌てなくていいですよ」「ゆっくりでいいですからね」という声かけを意識しましょう。特に納期が迫っているときほど、安全を優先する文化をつくることが大切です。
適材適所の役割分担をする
すべての作業を同じようにやらせる必要はありません。
- 重いものを持つ・高い場所に登る → 若手社員に
- 丁寧な検品・経験が必要な判断業務 → シニアに
このようにそれぞれの強みを活かした役割分担をすることで、事故のリスクを減らしながら、シニアの経験を最大限に活かすことができます。



『急がせない』って、言われてみれば当たり前だけど、忙しいとつい忘れちゃうかもしれませんね。
対策③|習慣をつくる
作業前の「準備運動」を取り入れる
朝礼やミーティングの前に、3分程度の簡単なストレッチを取り入れてみましょう。
特に効果的なのが「片足立ち」です。壁に手をつきながら、左右それぞれ10秒ずつ片足で立つだけ。これだけでバランス機能のチェックと向上につながります。
毎日続けることで、転倒しにくい体づくりができます。
毎日の「体調どう?」の声かけ
年齢に関わらず、体調が悪いときは誰もが判断力も反応速度も落ちます。
朝、顔を合わせたときに「今日、体調どう?」と一声かける習慣をつけましょう。これだけで、無理をさせてしまうリスクを減らせます。
また、「ちょっと調子が悪いです」と言いやすい雰囲気をつくることも大切です。



準備運動も声かけも、お金はかからないけど効果は大きそうですね!会社全体で『安全を大事にしてるんだ』っていう雰囲気が伝わるのも安心感があります。
【法律】「安全配慮義務」とは?
難しく考えなくて大丈夫
「シニアを雇って事故が起きたら、会社が責任を負わされるのでは?」
こう心配される方も多いと思います。確かに、法律には「安全配慮義務」というものがあります。
安全配慮義務とは、「会社は従業員が安全に働けるよう気をつけましょう」というルールです。
労働契約法第5条には、こう書かれています。
「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」
つまり、従業員を「雇う」ということは、その人が安全に働ける環境を「整える」責任もセットでついてくる、ということです。
対策をしていれば、過度に恐れる必要はない
大切なのは、「事故が起きないように、会社として何をしているか」です。
先にお伝えした3つのような対策を実践していれば、会社は安全配慮義務を果たしていると言えます。
逆に言えば、何も対策をせずに放置していると、万が一事故が起きたときに「会社は何も対策していなかった」と問われる可能性があります。
「対策をしている」という事実が、人と会社、両者を守ることにつながります。
労災保険について
もし、事故が起きてしまった場合は、労災保険が適用されます。
労災保険は、正社員だけでなくパート·アルバイトも含め、すべての労働者が対象です。シニアも、もちろん対象となります。また、労災保険の保険料は全額会社負担で、シニアを雇ったからといって保険料が大幅に上がるわけではありません(業種や過去の災害発生状況によって保険料率は異なります)。
まとめ
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
この記事でお伝えしたとおり、シニアの労災で最も多いのは「転倒」です。
そして、転倒は環境を整え、ルールをつくり、習慣をつくることで、大幅にリスクを減らすことができます。
「怖いから雇わない」のではなく、「対策をして、安心して雇う」というのが正しい選択です。
安全対策を「面倒なコスト」と思う方もいるかもしれません。
しかし、シニア世代が安全·安心して働ける環境をつくれば、その分、長く活躍してもらえます。これは、人手不足に悩む中小企業にとって、持続的な成長を支える力になります。安全対策は「コスト」ではなく、シニアが長く活躍するための「投資」なのです。
まずは今日から、できることをひとつだけ始めてみてください。
- 通路に置いてある荷物を片付ける
- 暗い場所の電球を替える
- 朝の挨拶に加えて「体調問題ありませんか?」と聞いてみる
小さな一歩が、みんなが安心して働ける職場をつくります。



対策をして、安心してベテランの力を借りましょう。シニアの経験と知恵は、会社の宝物です。応援しています!
※この記事は、厚生労働省の統計データおよび公表資料に基づいて作成しています。個別の法的判断については、社会保険労務士や弁護士などの専門家にご相談ください。




